アートルーム「呼風」について
現代美術家・柳幸典氏の作品世界を一晩滞在しながら体験していただく、露天風呂付きスイートルームです。
昨年4月にリニューアルオープンしたロビー兼ギャラリーと共通する鉄製の扉を入ると、柳作品の象徴とも言える回廊が出迎え、その先にはベッドルームやダイニングルーム、そして2つの独創的な露天風呂があります。
陶芸家・石井直人氏、帯匠十代目・山口源兵衛氏、左官職人・久住章氏、和紙職人・ハタノワタル氏ら、京都・丹波を拠点に伝統の技を振るう作家・職人たちと、柳氏との協働によってつくりあげられた現代アート作品としての空間では、料理長・細井久仁彦によるお料理とともに、唯一無二の宿泊体験をお愉しみいただけます。
夕暮れとともに虹があらわれる天の風呂「写真:泉山朗土」
久住氏の左官技と石井氏の織部釉の陶板による地の風呂「写真:泉山朗土」
<柳幸典氏からのコメント>
すみや亀峰菴でのプロジェクトは、旅館という宿りのための日本の伝統的空間と現代美術の融合という試みである。
旅人達を迎え入れるロビー兼アートギャラリー「百代」からアートと一体となったプライベートな客室「呼風」までを内と外、天と地、を表象する隧道でつなげるという構想で始まった本プロジェクトは、李白の詩「夫れ天地は万物の逆旅にして、光陰は百代の過各なり」の一節、そしてギリシャ神話でのイカロスが幽閉されていた迷宮から着想を得ている。
柳氏の造形的・建築的センスが光るロビー兼ギャラリー「写真:泉山朗土」
「百代」から続く鉄板による重厚な扉を開くと、天に向かう隧道と地に向かう隧道が過客(旅人)を迎える。
天を表象する客間は空(くう)をイメージする透明でミニマルな水の立方体の浴槽によるプリズムからの虹が視覚的な天を表現している。洋間の菊の作品の壁とイカロスの回廊の壁は和紙職人・ハタノワタル氏にお願いした。
対する地の表象としては、陶芸家・石井直人氏による登り窯の1200度を超える高温で焼かれ変形した破れ壺を、壺の裂け目から揺らめく焔とともに天に対峙させた。加えて左官職人・久住章氏による地に抱かれるような浴槽と、日没の前にひときわ焼ける夕日を思わせる土壁、そして裏山の木々の緑と鏡合わせに石井氏の織部釉の緑の陶板を壁にしつらえ、大地の生命感と死と再生の胎動を表現した空間となっている。
茶釜が置かれた一枚板のブビンガのカウンター越しに見える、久住氏が再現した「待庵」の土壁と柳氏の作品「写真:泉山朗土」
そして、天と地の狭間の和室の客間には、帯匠・山口源兵衛氏によりインスピレーションされた若冲の菊花が配される計画である。
禅語における「呼風」とは、風を呼ぶ力があるということから、不可思議な素晴らしい能力を持つ者についていう場合もあるとのことだが、まさしくそのような能力を持つ匠とのコラボレーションによる空間は、日本の伝統文化と現代美術が融合した新しい風を呼んでくれるものと願っている。
天の間にしつらえた菊の紋様の壁と地の間にしつらえた日本刀による私の作品「菊と刀」から、現代の日本の再生の物語-天に近づきすぎて翼が焼かれ墜落するイカロス-について夢想していただけたなら、百代の過各をお迎えする逆旅としての本望である。
柳氏によるアートルームプロジェクトのコンセプトドローイング「写真:泉山朗土」
すみや亀峰菴
所在地: |
〒621-0036 京都府亀岡市稗田野町柿花宮ノ奥25番地 |
客室数: |
26室 |
TEL: |
0771-22-7722 |
アクセス: |
京都駅からJR嵯峨野線 亀岡駅下車 車で15分程度 |
>すみや亀峰菴公式サイト
旅館のエントランスに常設展示されている葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」を引用した作品 Study for Japanese Art -Hokusai-「写真:泉山朗土」
<現代美術家・柳幸典(やなぎ・ゆきのり)氏プロフィール>
1959年福岡県生まれ。イエール大学大学院美術学部彫刻科修了。
1993年、第45回ヴェネチア・ビエンナーレに選ばれ、アペルト部門を日本人で初めて受賞する。以後ニューヨークにスタジオを構え、1996年サンパウロ・ビエンナーレ(ブラジル)、1997年ビエンナーレ・ド・リヨン(フランス)など多くの国際展に招待される。2000年のホイットニー・バイアニュアルでは、ニューヨーク在住の作家として外国人で初めて選ばれる。
1992年に直島コンテンポラリー・アート・ミュージアム(当時)の開館に伴い個展に招待された際に銅の精錬所廃墟がある犬島に出会い、1995年「犬島 アートプロジェクト」を着想する。2008年、明治の近代産業遺構と昭和の三島由紀夫のメッセージに自然エネルギーの技術を融合させた美術館、「犬島精錬 所美術館」を完成させる。
ニューヨーク近代美術館やイギリスのテート・ギャラリーなど多くの美術館に作品が収蔵され、ユーモアと社会性を帯びた挑発的作品は常に物議を起こし、その創作活動は美術の枠に収まらない。
柳幸典氏 Photo by Hideyo Fukuda