参拝に訪れた人々に癒しを提供する宿泊施設が「宿坊」です。なかでも「恵光院」は高野山で1200年もの歴史を持つ宿坊であり、旅装を解いてくつろげるだけでなく、瞑想や写経などの修行体験によって仏の教えを体感することもできます。
今回、特別室をしつらえるにあたり、英国と日本を拠点とするデザインエンジニアリングスタジオ「TANGENT」による壁面アートが制作されることとなり、その金箔施工を「箔一」にて行いました。
気鋭のデザインエンジニアが手掛ける瞑想空間
INAHO(2013)/人が近くを通るとセンサーが感知し、穂が揺れ、光り始める。Lexus Design Awardを受賞した作品
今回の作品を手掛けたTANGENT代表の吉本 英樹氏は、東京大学で航空宇宙工学を学んだあと、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アートでデザインを学んだ気鋭のデザインエンジニアです。第一回Lexus Design Awardなど、数多くの世界的なアワードを受賞し、世界有数のラグジュアリーブランドと組んだアートプロジェクトも手掛けています。
真言密教の瞑想法に着想を得たアート
吉本氏によって生み出されたこのアート作品は「月輪(がちりん)」と名付けられました。高野山真言密教には「月輪観(がちりんかん)」と呼ばれる瞑想法があります。月の輪に見立てた真円を見つめ、その月輪を自己の心の中に映し、さらに自己の身体全体、その部屋全体へと月輪の心像を広げ、最終的には全宇宙にまで広げていく瞑想法です。
この作品は月輪観に着想を得ています。真円から湧き上がる金箔の渦が壁面いっぱいに広がり、さらに別の次元の宇宙にワープし広がっていくかのような景色を表しています。真円には光源が設置され、周囲に向かって光が放たれます。宿坊恵光院の名前に因み、また真言密教の教主である大日如来を尊び、光によって金箔を浮かび上がらせるような表現となっています。
金箔の伝統的な美が、アートに生命を吹き込む
この作品のなかで、金箔が大きな役割を担っています。金箔は仏教美術においては古くから重要な素材とされてきました。この作品では、伝統的な素材を用いて歴史の連続性を担保しつつ、新しい技法によって現代に生きる私たちの感性に訴える表現となっています。
クレジット
奉納: |
TANGENT |
ディレクション: |
吉本 英樹 |
デザイン: |
舌 佑樹 |
サイズ: |
1900×2670/1900×3655 |
制作協力: |
株式会社箔一(金沢箔)
株式会社タカショーデジテック(照明) |
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