出雲とのご縁を運んでくれた場所へ
-こちらは小松さんにとって非常に意味のある場所だとお伺いしました。
ニューウェルシティ出雲さんですね。初めて出雲でアクリルで色を使って作品を描かせていただいたのですが、このホテルにご縁のある方が私の絵のファンでいらしてくださっていて、神在月に纏わる絵を描かせていただきました。2019年11月に描かせて頂いた作品が展示されています。
-こちらのレストランの奥に作品が展示されているのですね。
はい。ホテル内の”レストランくにびき”さんの一画に展示スペースがあります。ランチしながらでも展示を見る事が出来ますので、ぜひ立ち寄ってご覧になって下さい。出雲の地で絵を奉納させて頂いて、この場所から沢山のご縁が広がって、今があると思っております。心から感謝しています。
狛犬を描くきっかけとなった作品
-非常にエネルギーを感じる作品ですね。絵と立体両方が展示されています。
絵の下に狛犬を描くきっかけとなった山犬(ニホンオオカミ)を元にした狛犬が立体で展示されています。その上に龍みたいに見えるのが龍蛇神(りゅうじゃしん)という出雲大社の独特の御神使(ごしんし)です。
(※御神使=神道における神の使者、現世と接触する特定の動物。)
-この作品にはどの様な想いが込められているのでしょうか。
日本全国が神無月の時、出雲だけは神在月です。その際、稲佐の浜から龍蛇神という御神使が八百万の神を連れて行きます。我々人間のサイクルとは関係なく、こうした神々の営みは何事にも捉われる事なく続いていきます。ですから、我々はどんなに苦しくても祈る気持ちを忘れずに、大いなる存在に向かっていければという想いを込めて描いています。
出雲の地で生まれた「新風土記・第二弾」そこに込められたテーマとは
出雲井社近くの古民家で「新風土記・第二弾」を制作する小松さん
―今回の作品は、出雲大社近くの古民家で描かれたと伺いました。
そうですね。出雲大社から徒歩20分ほどの出雲井社(いずもいのやしろ )という摂社(せっしゃ)の隣にある古民家で描きました。4〜5時間くらいで描き上げましたね。
―2014年に新風土記を制作し奉納して以降も出雲の地には足を運んでいるようですが、今回改めて出雲で受けたインスピレーションはありましたか?
今回の旅では、伊勢神宮からすぐに出雲大社へ行ったので、これまではそれぞれの場所を分けて認識していましたが、日本の古事記や風土記でも繋がりがある2つの神社を巡ってから描かせて頂いたのは大きな経験でした。
“目”を発見した伊勢神宮、そして”色”を発見した出雲大社。私はそれらに出会ってから、その前の絵には戻れないし、今は本当に怖がらず色を使う事が出来ています。未来に向かっていく上での自分の在り方を再認識出来たと思っています。
そしてコロナ禍でどんなに社会が停滞してしまっても、神事(かみごと)というのはずっと続いていて、その大いなるエネルギーの中で、きちっと前を向いて歩いていかないといけないなと感じました。
これらのテーマが今回の作品「新風土記・第二弾」に反映されています。作品の全貌は番組で初公開となりますので、ご覧いただけると嬉しいです。
銅版画家としてスタートした小松さんに"色"を与えてくれた出雲大社
―出雲で色と出会ったと仰っていますが、小松さんにとってそれはどのような体験でしたか?
初めて出雲大社に正式参拝した時に八雲山の方に、光が下から上に上がっていくのが見えました。そこに人々の祈りの純粋さを感じて、祈りの中にある感情を色で表現する事が出来るのではないのかと思いました。神獣さんにその色をのせる事によって、天と私たちの間にいる存在である神獣さんにその祈りを繋いで頂いて「人々の魂を純粋な方向に導いて下さい」という気持ちを込めて描かせて頂いています。
絵を描くことを天が求めるなら、その役割を全うしたい
―小松さんの創作の中心には常に”祈り”というテーマがありますよね。
祈る心というのは物質的に表現するのは難しいと思いますし、魂も物質としては”無い”ものだから実感しにくいですけれども、人の心って物質では埋められないから、旧石器時代から比べたらこんなに便利なのに、結局病んでしまったりするんですよね。だから本当に大切なことって、非物質的なもので、それは魂(スピリット)だと思っています。神獣も非物質的なものですけれども、物質として捉えられないものと私たちを繋ぐものとして、とても大切な存在です。
―小松さんがとても特殊な存在だと思うのは、表現者は普通”自分を表現したい”と思う訳ですよね。でも小松さんは自分の”我”より、自分に”与えられた役割”を果たして、祈りを世界に届ける事をテーマとしています。
私は自分の我は出さなくてもいいと思っています。我を出したくて描いているというよりは、神獣さんを描かせて頂いているという気持ちが大きいです。それと、自分で操作できない運命の流れみたいなものは人間が無理やりこじ開ける領域じゃないと思っています。私が絵を描く事を天が求めるのなら、その役割を全うしたいという気持ちです。もちろん、周囲の皆さんがつなげて頂いているご縁の力も大きいと思います。
大きな転機となったラザレット・ベッキオで行ったライブペインティングでの体験
ベネツィア国際映画祭・ラザレット・ベッキオで行われたライブペインティング
―このコロナ禍においても小松さんは祈りのメッセージを届け続けていますね。
2019年、第76回ヴェネツィア国際映画祭の際にラザレット・ベッキオで行ったライブペインティングでの経験はすごく大きかったです。
15世紀~16世紀にペストが大流行して沢山の死者を出したそうです。その時に ペストの患者さんが隔離された島なんですね。今でもその骨が見つかるその島でライブペイントを行った時に、亡くなられた方々の魂を感じ自然と涙が止まらなくなってしまったんですね。その時、自分の役割はライブペイントを通して今もそこにある魂を癒す事にあるのだと悟りました。
それから半年してコロナが大流行したことは何かの啓示だったのではと感じています。人類は常に疫病との戦いでしたが、それでも生き抜いて来ました。このコロナ禍において、より精神的なものの重要性が増してきた様に思います。そんな中で、ラザレット・ベッキオでの体験は、このコロナ禍で祈りのメッセージを伝え続ける原点となっています。
描く事で"祈りの結界"を張る
ベネツィアでのライブペイント作品「INORI」
―小松さんの作品からは、踏み越えてはならない境界線に”祈りの結界”を張って我々を守ってくれている様な印象を受けます。
ありがとうございます。2020年、日本テレビ系「24時間テレビ 愛は地球を救う」にて「INORI FOR OUR PLANET」というコンセプトでチャリティーTシャツを作成させて頂いたときに世界各国の言語で”祈り”という言葉を書きました。「これは祈りの結界だね」という話をした事がありました。確かにそう言った想いはあるかもしれません。
2020年「24時間テレビ 愛は地球を救う」で「INORI FOR OUR PLANET」のコンセプトで制作したチャリティーTシャツ
―まさに、祈りは世界共通ですね。
私は本当に、大いなるものから人間が知能を与えられて、火とかエネルギーを見た瞬間から、それらに手を合わせて祈りを捧げていたと思っています。そう言った意味でも私の創作の原点は”祈り”ですね。
最後に改めて出雲のお勧めスポットを
出雲日御碕燈台(いずもひのみさきとうだい)と小松美羽さん
―創作についてのお話ありがとうございました。大変興味深く、感銘を受けました。そして、まだまだ出雲にはお勧めの場所がある様ですね!
日御碕神社から約100mの海上に浮かぶ経島の周りには海底遺跡があるんですよ!ダイビングが好きな方はぜひ行って頂きたいですね。海底に当時の神社が眠っていて、玉砂利なんかもちゃんと敷かれています。20mほどの深さですが、インストラクターが着いて潜る事ができます。
少し離れてしまいますが、隠岐ユネスコ世界ジオパークに登録された隠岐の島もおすすめですね。神社や遺跡などが沢山ありまして、そこで古代出雲人の存在を感じて感動しました。牛や馬の放牧や、因幡の白兎の元となったと言われる兎もいます。
出雲日御碕から望む日本海。この海に海底遺跡(神社)が。
―出雲には日本の原風景のようなものを感じますね。
そうですね。伊勢神宮は熊野や高野山などとセットで行かれる方も多いかと思いますが、出雲は一緒に周る場所があまり無かったりするので、なかなか足が向かないかもしれません。新幹線も通っていませんし。
でも、不便だから良いんです。不便だから守られていて、あまり現代社会が入って来ないのが出雲の魅力かもしれません。今でも古代の伊吹が感じられる出雲の地にぜひ一度は足を運んでみてほしいですね!
<HYAKKEI 編集部NOTE>
創作に対する信念やコンセプトについて真摯に答えて頂いた一方、圧倒的なライブペインティングで世界を魅了する彼女からは想像もつかないほど、出雲に対する親愛の念を自然体で答えてくださった小松さん。
“祈り”そして”与えられた役割を果たす”これらの彼女のメッセージは、物質的な充足のみを追い求める事に疲弊した現代社会に生きる人々に響く、普遍的なメッセージなのかもしれません。今回の制作を経て、彼女が今後どの様な作品を創作し、世界中に感動と救いを生み出していくのか。HYAKKEIでは今後も彼女の活躍を追い続けたいと思います。
><小松美羽さん単独インタビュー> -Part1- 小松美羽さんと巡る出雲の旅