うちなー滞在記vol.10「うちなー料理はなにが違う?~気候に適した食材と本土へ渡った食材~」

沖縄の料理といえば、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか?

ゴーヤーチャンプルー、ソーキそば、タコライス、ミミガー(豚の耳)、、、挙げれば切りがなさそうですが、どれも沖縄に特徴的でインパクトがあります。

沖縄へ移り住んではじめて食べた食材に「青いパパイヤ」があります。

パパイヤは熟して黄色く、独特の風味のある「果実」というのがそれまでの私の常識でした。しかし、うちなー(沖縄)では、パパイヤは青い状態で「野菜」として食べるのが常識でした。

“所変われば品変わる”とはこのことでしょうか。青パパイヤは味は淡白ですが、食感がとても良く、炒め物では他の食材の惹き立て役です。

実際に青パパイヤ(グリーンパパイヤ)は肉料理と相性が良く、「パパイン」というタンパク質を分解する酵素が含まれ、消化を助けてくれているのだそう。

さらに脂質や糖質を分解する酵素まで含まれているというのだから驚きです。

今回は、そんな沖縄独特の食材を、秘められた効能、本土(沖縄以外の日本のこと)へどのような影響を与えているのかを交えながらご紹介したいと思います。

うちなーを代表する夏野菜

今となっては日本全国に知れ渡り、各地で栽培も行われている「ゴーヤー」。

実はこの呼び方、沖縄の方言のようです。一般的には「ニガウリ」、植物学的には「ツルレイシ」という名称があります。

ゴーヤー。一昔前、本土では「知る人ぞ知る」野菜でした。

その特徴は、とても「苦い」ですよね。薄切りにして水にさらしておくと苦みはだいぶ減りますが、この苦みは「モモルデシン」という成分によるものです。

胃腸を刺激し、消化液の分泌を促すのだそう。暑い日が続くと食欲が低下(いわゆる夏バテ)してくることがありますよね。平均気温が高い沖縄にはぴったりの食材といえそうです。

先ほどご紹介した青パパイヤ。うちなーでは「パパヤ」と呼ばれています。

しかし、なぜ沖縄から本土へ広まったのでしょうか。

まず、大害虫“ウリミバエ”の根絶に成功したことが挙げられます。この時の駆逐(くちく)法は「不妊化法」といい、日本で初めてこの方法で害虫の根絶に成功しました。

ゴーヤーチャンプルー。チャンプルーは「混ぜこぜにしたもの」という意の沖縄方言。

不妊化させたオスを大量に野へ放つと、交尾をした野生のメスは卵を産むことが出来ません。これを毎世代繰り返すことで駆逐していくという方法です。

1972年(沖縄が日本本土復帰の年)に久米島で根絶事業が始まり、21年後の1993年、ついに県が「ウリミバエ根絶宣言」を出しました。

しかし個人的に、ゴーヤーの認知度を飛躍的に高め、本土の食卓へ浸透させたのは、NHK連続テレビ小説『ちゅらさん』(2001年放送)の影響が大いにあるのではないかと感じています。

ちゅらさんの舞台となった小浜島の「こはぐら荘」。

本土ではタワシの原料?

さて、初めに話させていただいた「青いパパイヤ」ですが、実は初めて食べた食材がまだあります。それは「ヘチマ」です。うちなーでは「ナーベラー(ナーベーラー)」と言われています。

もちろんヘチマは知っていましたが、見たことがあるのは小学校の学習用菜園での記憶しかありません。

ヘチマはとても繊維が多い植物で、その繊維を採取していたことから「糸瓜(いとうり)」という名前があります。大きくなればなるほど(熟すほど)繊維質は多くなり、本土では初めから食用としてではなく「タワシ」の原料として生産されています。

また、ヘチマの茎を切ると根側の茎から液体(ヘチマ水)が出てきます。ヘチマ水にはヘチマサポニンによる浄化作用やカリウムイオンによる穏やかな皮膚軟化作用があり、「飲み薬・塗り薬(民間薬として)」や「化粧水」として用いられたりもするそうです。

熟し過ぎたナーベラーは、沖縄の家庭でも「タワシ」として用いられます

沖縄の料理には「揚げ物」「煮物」といった料理と同列に「チャンプルー」「イリチー」「ンブシー」という調理方法があります。

「チャンプルー」は沖縄の豆腐(島豆腐)と野菜を主材料とした炒め物。「イリチー」は豚だしやラードを使った“炒め煮”料理。

「ンブシー」は豆腐や豚肉と、熱を通したときに出てくる野菜の水分を利用した煮物のような料理のことを言うそうです。

ナーベラーの炒め物。上述した料理とは別に「炒め物」があるのが沖縄料理の奥深いところ。

正直な感想は「美味しい」と感じた後に独特の「青臭さ」を感じました。

しかし、二口目からはその青臭さは次第に感じなくなり、ナーベラーの水分と他の食材の旨味が合わさり、柔らかくとても美味しい料理でした。

海を渡ったうちなーんちゅ

最後に、沖縄本島北部は“やんばる”の地、大宜味村(おおぎみそん)出身の宮城 新昌(しんしょう)さんをご紹介いたします。本土の“ある場所”ととても縁の深い方です。

1905年(明治38年)、アメリカへ渡り農業や水産業に携わったのち、日本で「かき(牡蠣)」の養殖事業を始めます。日本全国を回り、かき養殖に適した土地を探してたどり着いたのが、沖縄とは遠く離れた東北の宮城県石巻市でした。

かきの養殖には ①きれいな海水 ②プランクトンの多さ ③海水温が高くない といった条件が必要です。沖縄は海水温が高かったため、養殖には適さなかったのでしょう。

世界自然遺産に登録された“やんばる”。

石巻市・万石浦(まんごくうら)でもかきの養殖は行われていましたが生産量は多くなく、地元の漁師も試行錯誤をしながらといった状況だったそうです。

新昌さんは万石浦へ住み込み、漁師たちの協力を得ながらかき養殖の研究を始めました。
目的は生産数を増やし、大浦湾の大きなかきの種苗(しゅびょう…大きく生育する前の稚貝のこと)をアメリカへ輸出することでした。

当時アメリカのかきはとても小さかった(500円玉程の大きさ)そうです。

“この仕事が成功すれば、アメリカの漁師にも多くの恵みをもたらす。種苗が売れれば大浦湾の漁師たちも喜ぶはず。日本とアメリカの架け橋になれるかもしれない” こう思ったそうです。

そして、現在も広く用いられる「垂下(すいか)式養殖」を考案しました。海に浮かべた“いかだ”から、縄に挟んだ種苗を吊るす方法です。新昌さんはこの方法を自らの特許とせず、漁師たちが自由に取り組めるようにしました。

「世のため人のためになればよい。金もうけはしないことだ。」

新昌さんがお母さんから言われた言葉だそうです。この方法は世界各国で用いられるようになり、新昌さんは「かき養殖の父」「世界のかき王」と呼ばれるようになりました。宮城県石巻市には新昌さんをたたえた石碑があります。

沖縄には「宮城」という地名や名字がとても多く、昔から“宮城県とは縁がある”という考えの方がいるそうです。今でも大宜味村と石巻市は、その繋がりを誇りに思っているのでしょう。

それではまた、次回にお会いしましょう。

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