【東海道五十三次ふらっと-flat-完歩】Vol.48 鈴鹿峠~水口編 鈴鹿峠のイケメン好き女鬼とか

『東海道五十三次ふらっと-flat-完歩』とは…
ふとしたきっかけで東海道を歩き、その魅力に目覚めた筆者が、旧東海道に沿って、五十三次、約500㎞をテキトーに歩き、永い歳月をかけてついに完歩してしまった感動巨編!(ただし全米は泣かない)。

時間がある時にぶらっと出かけて、気の向くままに歩くシステム。よって歩く順番もランダム。名所旧跡を語るより、街道沿いの人々や風俗(変な意味ではない・・・と思う)、B級スポットなどを、ときどき妄想も入れつつ紹介し、いつか現代の十返舎一九と呼ばれたい。

東海道の西の難所と呼ばれる鈴鹿峠。東の箱根にくらべればあっけない感じで越えてしまいましたが、その頂上付近にイケメン好きの女鬼がいる、ということで僕にとっては別の意味での難所でした。え?おまえ関係ないだろって?

鏡岩の女鬼!

鈴鹿峠の朝、というよりバーベキュー鈴鹿峠の朝。

鈴鹿馬子唄で「峠は曇る」と唄われた鈴鹿峠も今日は雲一つない快晴。この天気なら峠を越えても雨が降ることはないでしょう。

さあ、出発です!

えっ?ちょっと待ってよ。鈴子と過ごした鈴鹿峠のムフフな一夜はどうしたの?たぶん読者の3500人のうち3498人はそう期待されていることでしょうから、ここで何も包み隠すことなく赤裸々に告白しようと思います。

ここの宿泊施設には、なんとお風呂が一つしかなくて、家族風呂のように「入浴中」というボードをぶら下げて交代で入る入れ替え制だったのです。いやーまいったなあー。いきなり家族風呂で混浴ですかー、とかなんとか勝手に妄想していると、鈴子にこう強く念を押されました。

「私がお風呂に入って入る姿を、絶対に覗かないでください。絶対に絶対に覗かないでください。きっとよくないことが起こります。間違いなく不幸が起こります」

鶴の恩返しかよっ!いや、鶴の恩返しよりはるかに怖そうだぞ・・・そんなわけで(どんなわけだ!)鈴鹿峠の夜は、静かに、何事もなく更けていったのでした。

以上、報告おしまい。

さて、本編に戻ります。バーベキュー鈴鹿峠から国道を少し戻っていよいよ峠越えへ入ると、鈴子の先祖、鈴鹿御前を祀ったといわれる片山神社のすぐ脇に鈴鹿流薙刀(なぎなた)術発祥の地の石碑がありました。

かつてこのあたりを跋扈した盗賊やら鬼やらを、鈴鹿御前がぶった切ったのもこの鈴鹿流薙刀術だったのでしょうか?鈴子が白い道着と長い袴を着て、薙刀を振り回す姿を想像してみたのですが、確かになかなか様になっているかもしれません。

いよいよここから「八町二十七曲り」と呼ばれる鈴鹿峠の本番!と思ったら感覚的には10分も歩かないうちに杉木立に囲まれた平らなスペースに出てしまい、どうやらここが鈴鹿峠の頂上らしいのです。

旧東海道の鈴鹿峠を徒歩で越えた人で、特に箱根越えを経験している人の感想を聞くと、ほぼ100%近い人が「あっけなく頂上に着いちゃった」と言っていたので、まあそんなもんだろうな、という感じです。

私の役目はここで終わりだから。

鈴鹿峠の山頂付近、旧街道から少し外れたところにある「鏡岩」の前まで来ると、鈴子はいきなりそんなことを言い始めました。

私は東海道のここから先、近江側には行けないことになっているの。

この裏側にはかつて鏡肌岩と呼ばれ、ホンモノの鏡と変わらないほどツルツルの光沢を誇っていた大きな岩があったのだ、といいます。そしてそこにはかつて女鬼が棲み、旅人が通るたびに絶世の美女に姿を変え、もろ肌を脱いだ姿を鏡岩に映して誘惑し、身体以外のものは身ぐるみ剥いでしまったのだ、と鈴子が説明してくれました。

「この岩をぐるっと回りこんだ先に、今でも鏡岩があって、男の旅人が通ると、妖艶な女の肌が映し出されて誘惑されるみたいよ。ただ、昔の女鬼と違うのは、イケメンだとモノは取られず、身体だけ襲われちゃうらしいわよ」

そして一呼吸おいて最後にこう付け加えました。「どう?試しに行ってみない?」

おぉー、そうか。いーじゃないか、鈴鹿峠の女鬼。僕が通れば間違いなく襲われちゃうだろうけど、それも旅の勲章、大いに結構!と思って鏡岩へと足を進めようとしたのですが、すぐに満足に手すりもないような崖っぷちを歩かなければならないことに気づいたのでした。

ゴメン、高所恐怖症なんでこの先歩けないわ。

僕がそう言うと、鈴子は寂しそうに、さよなら、と言って一人、鏡岩の方へと消えていきました。

戻ってきてこの伝説を調べたところ、かつての女鬼が坂上田村麻呂によって征伐され、改心して生まれ変わったのちの姿が鈴子の先祖である鈴鹿御前だったのでした。そうなると鈴子も必然的にその女鬼の子孫であることになります。そう、昨日の夜、お風呂に入っていたのは鬼だったのかもしれません。。。

でも鈴子、ここまでありがとう。おかげで寂しいはずの鈴鹿峠越えがめちゃくちゃ楽しかったぜ。次にいつここに来るかはわからないけど、その時はだまされてみたいぜ。

近江の国あいの土山

さて、頂上付近の杉並木を近江側に抜けると、そこは一面の茶畑。

ここが伊勢と近江の県境で鈴鹿峠の頂上となり、ここから先、近江の国は僕ひとりで歩くことになります。鈴鹿峠は三重県側は厳しい山道なのですが、滋賀県側はゆるやかに開けた台地のようになっていて、次の宿場、土山宿に向けて長い距離をかけてゆっくりと坂を下っていきます。

ここは滋賀県甲賀市。案の定、滋賀に入るとすぐに出てきたのが、この滋賀県発祥、飛び出し坊や。

が、なんだかちょっと、いや、かなり変です。顔の形がクレヨンしんちゃんですが、なんでこうなっちゃうんだろう?最初はちゃんとしたしんちゃんの顔を書いてたんだけど、著作権違反とか言われて、わざと下手くそ顔にしたとか?

国道1号をずっと歩き、旧東海道では(たぶん)唯一、工場の中を通るかのような場所を抜けたりします。

坂上田村麻呂を祀った田村神社の横を通り、旧道が国道1号と交わるところにあったのが、道の駅あいの土山。昨日関宿を出てからここまで、何か物が買えるようなところを見たのは久しぶりでした。

この道の駅脇の旧街道から先が土山宿の宿場町となります。土山宿も比較的よく保存された古い町並みが旧街道に沿って長く続きます。

歌川広重 東海道五十三次 土山 春之雨 │ 八百八谷と言われた険しい鈴鹿峠を超えた所にある土山宿。今回の道中は晴天に恵まれましたが、雨量が多い地域でここを通る大名達も苦労した様です。

途中の町なかの小さな橋に貼ってあった鈴鹿馬子唄の2番の歌詞でしょうか。僕的にはとても好きな歌詞なのですが、昔の人たちはこうして鏡岩に映った妖艶な娘にみんなだまされちゃったんでしょうかね。まあ、仕方ないですね。

土山はお茶でも有名なところで、旧東海道沿いにも茶畑をよく見かけました。

土山の宿場町を抜けると左側に見えてくる野洲川。奥のほうに見える山塊が、越えてきた鈴鹿峠方面でしょうか。

土山の次の宿場町は水口(みなくち)。いくつもの集落を抜けて、ようやく水口の町へ。ここで旧東海道は、近江鉄道の水口石橋駅と交差するので、今回はここ水口をゴールとすることにします。

水口には旧街道沿い、宿場町の中心部あたりの大池町(おいけまち)と、この水口石橋の駅前にからくり時計がありました。

歌川広重 東海道五十三次 水口 名物干瓢 │ のどかな農村で名物の干瓢(かんぴょう)を作る女性達。その様子を通りかかった男が珍しそうに眺めています。何気ない風景の中に一片の物語を感じさせる広重の手腕が光る作品。

このあと近江鉄道で貴生川に出て、草津、米原を経由して新幹線で帰ることになります。三重県を完歩し、西の難所である鈴鹿峠を越えたことで東海道の西の端もかなり制覇した感じですが、やっぱり3日間歩き続けるのは結構疲れますね。

そして突然現れて僕と一昼夜を共にした鈴鹿鈴子。それは夢だったのか幻だったのか、今でも僕にはよくわかりません。

今回の結果(2日間合計):亀山宿~水口宿 32.8kmを制覇! 
東海道テキトー完歩まで:現在の合計 443.8㎞/495.5km
<2015年10月訪問> 最新の情報は公式サイト等でご確認ください。

Vol.49へ続く
< 【東海道五十三次ふらっと-flat-完歩】Vol.47 関宿~鈴鹿峠編 鈴鹿鈴子と鈴鹿峠越え

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*1:富澤慶秀・藤田洋監(2012). 『最新歌舞伎大辞典』. 柏書房.

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