赤髪の精霊が宿る木
「ひんぷんガジュマル」は、沖縄本島北部・名護(なご)市にあるガジュマルの巨木です。名護大通り(県道84号)の中央分離帯上、というより、巨木を避けるように道路がつくられているといった方が正確でしょうか。
ガジュマルの木を避けて車が走る様子。
樹齢は240年~300年以上とされています。なぜはっきりとした樹齢がわからないのでしょうか?
おそらく、幹の周りにからみついた「気根(きこん)」と呼ばれる根があるため、幹の周囲を正確に測れないからだろうと思います。
沖縄市・八重島公園のガジュマル。気根が幹を覆うように垂れ下がっています。
通常、根は土の中に伸びていきますが、「気根」は幹の途中から伸びてきます。空気中に根があるので、空気中の水分を吸収出来るという利点があります。
ガジュマルが生息する熱帯~亜熱帯地域は湿度が高い(空気中の水分が多い)ので、「気根」はうってつけの構造と言えます。
地面を這うように根を張ることで、大きく育つ幹や枝葉を、しっかりと支えるという役割もあります。
ガジュマルが生息する沖縄、台湾、インドなどでは、台風やサイクロンの影響をとても受けやすいので、「気根」は本当に環境に適した働きをしています。
「アダン」という樹木。この木も「気根」を持ち、強風でなぎ倒されないよう、自らを支えるように成長しているのがわかります。
沖縄には昔から「ガジュマルの古木には精霊が宿る」という伝説があります。その精霊が「キジムナー」です。
「キジムナー」は赤い髪をしていて、跳ぶように歩く、子供の精霊だそうです。気に入られれば、魚をたくさん獲ってきてくれたりと、家を栄えさせてくれるようです。
しかし、ひとたび嫌われてしまうと、とても恐ろしい仕返しが待っているようです。例えば、おなら(キジムナーはおならが嫌い)をすると、足首をつかまれて海で溺死させられるとか...恐すぎです。キジムナーさん...
東北地方に伝わる「座敷童子(ざしきわらし)」との共通点も多くありそうです。
魔除けの「ひんぷん」とは?
「ひんぷんガジュマル」の「ひんぷん」は、中国語の「屏風(ひんぷん)」からきています。日本語では「びょうぶ」とも読みますね。
では、「ひんぷん」とはどのようなものでしょうか?
琉球村・旧島袋家
このような沖縄の伝統的家屋の、正門から入ったところにある衝立(ついたて)のことを「ひんぷん(屏風)」といいます。
目隠しという意味もありますが、魔物(マジムン)が家の中に入ってこないようにする、いわゆる「魔除け」の意味が大きかったようです。
もともと「ひんぷんガジュマル」という名前は、樹下に置かれている「三府龍脈碑(さんぷりゅうみゃくひ)」、別名「ひんぷんしー(屏風石)」と呼ばれる石碑が由来ですが、名護の街を隠し、魔物を寄せ付けまいと立ちはだかる、このガジュマルこそが名護の街の「ひんぷん」である、という意味合いの方が今は強いようです。
街側から見た「ひんぷんガジュマル」
ひと昔前までの沖縄では、ガジュマルは子供の遊び場だったようです。私が沖縄を好きになった理由のひとつに(好きに理由は無いのですが)、「ガジュマル」や「キジムナー」が出てくる映画を見た、というのがあります。
実際にガジュマルやキジムナーを見たことがない私は、「精霊といい、ガジュマルの風貌といい、どうやら沖縄には私の理解を超えた何かがあるらしい」と思ったものです。
あの頃は、こんなに「ガジュマル」が身近な存在になるとは思ってもみませんでした。今でも不思議な感じがします。今回「ひんぷんガジュマル」を訪れて、沖縄に象徴的な樹木「ガジュマル」が、うちなーんちゅ(沖縄の人たち)にとって、かけがえのない存在だということを改めて感じました。そして「ガジュマル」にとってもうちなー(沖縄)は、とても「居心地がいい」場所なんだということも。
うちなーぐち講座
コザ(沖縄市)の路地裏にて。
最後に、沖縄の方言「うちなーぐち」を2つご紹介したいと思います。
まずは、、、
【にふぇーでーびる】
え?でーびる?(初めて聞いた時の私の反応です)
これは「ありがとうございます」という意味で、「ありがとうございました」と過去形になると「にふぇーでーびたん」と変化します。
これに、いっぺー(たくさん)という言葉がつき、「いっぺーにふぇーでーびる」となると、最大級の感謝を伝えることが出来るそうです。
【よんなー】
繰り返して「よんなーよんなー」と言うことも多いそうで、意味は「ゆっくり、焦らず、自分のペースで」という優しい言葉です。とても好きなうちなーぐちのひとつです。
それではまた、次回にお会いしましょう。